福島地方裁判所 昭和59年(わ)165号 判決 1984年10月03日
本籍
福島県郡山市田村町上道渡字曲渕八三番地
住居
同市大槻町字北中野二二番地の三
飲食店経営
安藤要治
昭和一八年七月一三日生
右の者に対する所得税法違反、常習賭博被告事件について、当裁判所は、検察官林菜つみ、弁護人田島勇各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金一八〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二万五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から五年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一 福島県郡山市西ノ内二丁目一二番八号で、昭和五二年七月に麻雀荘「コウフ」を、昭和五六年一二月に飲食店「コーヒーキッチンバンクカレンダー」を、昭和五七年一月に同市島一丁目一六番一三号で遊技場「フルハウス」を、同年五月に同市昭和二丁目五五番二号で飲食店「こよみ」を次々開業して、それぞれ経営し、いずれもポーカーゲーム機等を設置して、これによる利益を得ていたものであるが、同ゲーム機による遊技が盛んになり、その収益が増大したものの、その性質上公にできなかったことや、これらの利益をさらに店の拡張資金に充てようと考え、ゲーム機による収入をありのまま申告しない方法で、自己に対する所得税を免れようと企て、ゲーム機による収入を除外して、これを架空名義の普通預金や定期預金の口座をそれぞれ開設してこれに振込んだり、第三者に対する貨付金とするなどの種々の不正手段により、その所得を秘匿したうえ、昭和五七年分(同年一月一日から一二月三一日まで)の実際の総所得金額が、財産増減法に基づき、別紙(1)の「所得の確定表」記載のとおり、一億三四〇四万四四四六円であったにもかかわらず、昭和五八年三月一五日、同市堂前町二〇番一一号所在、所轄の郡山税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が二七七万八九九〇円でこれに対する所得税額が一二万一八〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって不正の行為により、別紙(2)の「脱税額計算書」記載のとおり、自己の昭和五七年分の正規の所得税額八五〇四万八〇〇〇円と、右申告税額との差額八四九二万六二〇〇円を免れ
第二 常習として、昭和五八年一〇月二五日ころから、同五九年五月一五日ころまでの間、別紙(3)記載の犯行年月日に、前記「コーヒーキッチンバンクカレンダー」店内において、同店内に六台の電動式テレビポーカーゲーム機を設置し、別紙(3)記載のとおり、同紙「賭客名」欄記載の鈴木新治ほか四名の客を相手に前後一五回にわたり、右ゲーム機を使用して、客が右ゲーム機に一〇〇〇円札の紙幣一枚以上を挿入したうえ、一〇〇円につき一点の割合で客の持ち点が、右ゲーム機の画面上に「クレジット」として表示され、客は一勝負で最高二〇点まで任意の点数を「ベットボタン」と称する賭倍率ボタンを押して賭け、スタートボタンを押すことにより、右画面上にいわゆるトランプカード五枚の画像が、偶然に選択されて表向きに表示され、一度だけ、ボタン操作により、その全部あるいは任意の枚数を交換して勝負が決せられ、右五枚のカード中に、いわゆるトランプのポーカーゲームにおける役ができていないとき客の負けとなり、ツーペア以上の役ができた場合には、客が役に応じて賭数の二倍(例えば、ツーペアの場合)から最高五〇〇倍(例えばロイヤルストレートフラッシュの場合)までの点数を取得することができ、さらに、その後、客の希望により、右のように取得した点数につき、いわゆる「ダブルアップゲーム」の勝負をすることができ、客が当該ボタンを押すと、右画面上に裏返しになって表示される一枚のカードにつき、そのカードの数字が「六」以下であるかあるいは「八」以上であるかを予想して、いずれかのボタンを押すことによって、右画面のカードが表向きになり、客の予想が的中すれば、客の取得点数が倍になり、客の予想が的中しなかった場合には客の負けで、客の負けの場合には点数をすべて失なうという方法で一ゲームが終了し、このように何回かのゲームを継続した後に、客の有する総点数について一点一〇〇円の割合で計算した金額を客に交付して精算し、客に持ち点ないしは取得点数がなくなれば、客が右ゲーム機に捜入した金員を自ら取得するという方法で、同紙「賭金」欄記載の現金を賭けて、その得喪を争い、もって、賭博をし
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 郡山保健所長作成の「捜査関係事項について(回答)」と題する書面
判示第一の事実について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官(昭和五九年六月一五日付)に対する供述調書
一 被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書(二八通)
一 古室賢一および渡辺武勇の検察官に対する各供述調書
一 安藤美枝子(五通)、高橋良一、吉田良司、近藤勝利、新田定雄(二通)、塩沢良清(二通)および与沢秀雄の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の「脱税額計算書」と題する書面
一 大蔵事務官作成の「脱税額計算書説明資料」と題する書面
一 大蔵事務官作成の「銀行調査書」と題する書面
一 郡山保健所長作成の「捜査関係事項照会について(回答)」と題する書面
判示第二の事実について
一 福島地方裁判所郡山支部第一回(同年六月一三日)公判調書中の被告人の供述部分
一 被告人の検察官(同年五月二五日付、同月二九日付)および司法警察員(六通)に対する各供述調書
一 鈴木新治の司法警察員に対する各供述調書の謄本
一 宗形和博、橋本慎悟、山田明夫、遠藤勝春の検察官および司法警察員に対する各供述調書の謄本
一 司法警察員作成の捜査復命書
(法令の適用)
被告人の判示第一の所為は所得税法二三八条一項、一二〇条一項三号に、判示第二の所為は刑法一八六条一項に各該当するところ、判示第一の罪については懲役刑および罰金刑を併科することとし、以上は、同法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については情状により(所得税法二三八条二項)、免れた所得税の額に相当する金額以下にするものとして、その刑期および金額の範囲内で被告人を懲役一年六月および罰金一八〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金二万五〇〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から五年間、右懲役刑の執行を猶予することとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 野口頼夫)
別紙(1)
所得の確定表
自 昭和57年1月1日
至 同 年12月31日
修正貸借対照表(財産増減法)に基づき算出する。
<省略>
なお、この金額から、事業専従者控除額400,000円を差引くと134,044,446円となる。
別紙(2)
<省略>
別紙(3)
<省略>
<省略>